マンションを所有している多くの人が、これから必ず考えなければならないことが「マンションの終活」であるといえます。
マンションを廃墟化させないためには、「マンションの最後をどうするのが一番いいのか」を区分所有者全員で話し合う必要があります。
大きく分けて次の三択であると言えます。
- 今のマンションのまま長く維持管理して住み続ける
- 古いマンションを壊して新しいマンションに建て替える
- 区分所有者全員、敷地権を売却して区分所有を解散する
その中でも「建替え」と「敷地権売却」は大きな決断となります。
今回は「建替え 」について
マンション管理歴25年の私が解説します。
マンションの建替え決議の仕組み
建替え決議が成立するためには、区分所有法に定められた手続によって招集された総会を開催し、区分所有者および議決権の5分の4以上の賛成で建替えを決議することができます。
建替え決議が成立すると、決議に賛成しなかった区分所有者に建替えの参加の意思を確認する「催告」(63条)が行われ建替え参加者が確定します。
マンションの建替えの施行方法
マンションを建替えするのに大きく分けて3つの施行方法があります。
- 「マンション建替組合」施行
- 「個人」施行
- 等価交換(全部譲渡方式)
①「マンション建替組合」施行
建替え決議後、建替えに参加する区分所有者で「マンション建替組合」を設立して建替え事業を実施していきます。
「マンション建替組合」とは決議に合意したうちの4分の3以上の同意により設立されます。
※「マンション建替組合」とはマンションの建替えを目的とする組合のことです。
この組合の設立が同意されたときは、建替え決議の合意者は全員がこの組合員となります。
また、デベロッパーがこの組合に参加することもできます。
組合は法人格をもち、事業の施行者となります。
デベロッパーが参加しない区分所有者だけの建替えも可能ですが、デベロッパーが「参加組合員」として参加して、保留床の取得に合わせて負担する「負担金」で事業費を賄う方式が一般的です。
組合設立や権利変換計画などについて行政の許可を受けながら事業を進めていきます。
②「個人」施行
区分所有者と抵当権者を含む関係権利者全員の同意があれば、区分所有者個人やデベロッパーなど区分所有者以外の者を「個人施行者」としてマンション建替え事業を行うことが可能です。
事業計画の縦覧等の手続きがいらなくなるため、「組合施行」に比べ、スケジュールを短くすることが可能です。
③等価交換(全部譲渡方式)
区分所有者が土地・建物を提供(出資)し、デベロッパーが事業主体となってマンションを建築します。
区分所有者は権利の評価相当の金額または新しいマンションの区画を取得します。
すべての所有権が一旦デベロッパーに移転することから「全部譲渡方式」と呼ばれます。
権利変換手続きによって従前の権利が移動するマンション建替法と違い、等価交換契約を建替えに合意した区分所有者全員が個別にデベロッパーと契約することが必要です。
一方、行政の認可に伴う手続き期間が必要な「組合施行」に比べ、スケジュール短縮の可能性があります。
マンションの建替えが決まったらどうすればいい?
建替えに賛成派
建て替えに賛成して再び新しいマンションに入居することができます。
マンションの建て替えには区分所有者も一定の費用負担があります。
ただ土地の権利は既に持っていますし、建築費の一部も修繕積立金の中から充当されます。
つまり新しく建設される建物代金の一部を支払って新築マンションを購入できるイメージです。
また、住み慣れた環境を変える必要もなく、経済的にも精神的にも再入居するメリットは大きいでしょう。
建替えに反対派
建て替えに反対すると立ち退くことになります。
建替え決議は区分所有者の5分の4以上の賛成で可決されるため、最大5分の1の反対者が存在することになります。
反対者に対しては、「マンション建替組合」による売渡請求という手続きが行われます。
売渡請求を受けると、そのマンションを時価で売却することができます。
ただし、建て替えが必要なマンションの時価はかなり安いと考えられます。
経済的にはデメリットが多いことから、反対して立ち退く選択肢は慎重に選ぶことをおすすめします。
分譲マンションの建替えが少ない3つの理由
うまく建て替えができるマンションならば良いのですが、実は建て替え実例は非常に少ないです。
高経年のマンションが増加しているのに建て替えが進まない理由は主に以下の3つです。
- 建替え費用の負担が重いため
- 建替えが決定するまでが複雑なため
- 法律上建替えられない分譲マンションが多いため
①建替え費用の負担が重いため
分譲マンションの建替えが少ないのは区分所有者の建替え費用の負担額が非常に重いためです。
分譲マンションの建替えの費用の相場は一戸当たり1000万円~3000万円ぐらいと言われています。
建替えに必要な負担額の内訳は「解体費用」「建設費用」「設計費用」「事務経費」のほか、「仮住まい費用」などです。
解体費用と設計・施工費用は、マンションの周辺環境、建物の構造、階数や延床面積などの規模、設備のグレードなどによっても異なります。
延床面積がより広く、高さが高く、さらにグレードが高い物件ほど費用が上がる可能性が高いです。
②建替えが決定するまでが複雑なため
分譲マンションの建替えが少ないのは建替えが決定するまでが複雑なためだということも理由です。
建替えの実施が決まるまでに、以下の4つの段階があります。
- 準備段階
- 検討段階
- 計画段階
- 実施段階
準備段階
最初に行われるのは、建替えを検討すべきかどうかという協議です。
建物は、高経年であるほど老朽化が目立ってきます。
建物の老朽化を原因とする建替えの場合、築40年過ぎたあたりから建物の状況をチェックし、早ければこの段階から専門家を交えて管理組合での話し合いを始めます。
「管理組合としてマンションの建替えについて検討を始めていいですか?」の合意を得ることが目的となります。
そのために、まずは区分所有者の有志が主導で勉強会などを設けます。
①現在どんな問題点があるのか?
②そのための費用がどのくらいかかるのか?
③どのくらいの規模の工事を行うのか?
などを話し合わなければなりません。
つづいて、検討結果を理事会に提示して理解を得ることで、区分所有者全員が出席する定期総会の決議に発展させていくことが必要になります。
総会の決議として下記の議決を受けることとなります。
①検討組織を設置すること
②検討に要する資金を修繕積立金や管理費から拠出すること
ここで、賛成決議がくだされて、初めて、本格的な検討を開始することが出来ます。
検討段階
ここでは次のことを検討します。
①建替えを行う
②それとも次回も大規模修繕を行い、建替えの時期を延長させるのか?
正しい判断をするためには、マンション管理士等専門家に正式に依頼するのが望ましいでしょう。
その段階で、管理組合の内部に「建替え検討委員会」などを立ち上げます。
検討の結果、「修繕より建替えが適切」と管理組合で判断されれば、管理組合の内部に「建替え推進決議」を行って計画段階に移ります。
計画段階
どのように建て替えを行っていくのか、具体的な計画を立てる段階です。
- 設計・施工するデベロッパーの選定
- 建築・事業などの建替え計画全般の検討
- 区分所有者との意見交換など合意形成の準備
- 管轄行政等との調整、近隣住民との協議など
建替え計画の案が決まったら区分所有者に説明会を経て「建替え決議」を行います。
建替えには負担する費用の有無やその負担額が賛否の大きな判断基準となります。
費用負担を明確にして建替え決議をするのが良いでしょう。
その上で5分の4以上の賛成が得られれば建替えの実施が決定されます。
実施段階
最後はいよいよ、実際に建替えを行う段階です。
建替えが決定されたら、マンションの建替えを進める団体法人として「マンション建替組合」を設立します。
実際に建替え工事を始める前には、所有者の権利の調整(住宅ローン返済のための引継ぎや新しいマンションの所有権の持分決定)が必要になります。
また、建替え工事を行っている間、居住者は仮住まいへ引越さなければなりません。
もし住宅ローンが残っている場合は、その期間はローンの支払いと仮住まいの家賃の両方を負担することになります。
建替えの賛否を決める際は、これらの支払いまで含めた建替え費用の負担ができるのかを慎重に検討することが大切です。
実施段階では、実際に既存マンションが解体され、新たなマンションの工事が着工されます。
建替え後には、再建マンションの管理組合を設立して再入居することでようやく建替えが完結となります。
このように、期間としては検討から実施まで10年以上かかることもあります。
また住民の意思が強く影響するので、「建替え決議」は区分所有者の5分の4以上の賛成を得る必要があります。
そのため、住民の大きな反対にあって建替えがとん挫してしまうケースも少なくないのです。
③法律上建替えられない分譲マンションが多いため
建替えたいのに法律上建替えにくい「既存不適格」な分譲マンションが多いことも、理由のひとつです。
「既存不適格」とは、建築時は旧法律の基準で合法的に建てられていても、その後の法改正や都市計画変更により現在の法律に対して不適格な部分が生じた建築物のことをさします。
特に建替えを検討している築30年超の分譲マンションが建築されたのは1970・80年代などになるため、各種法改正の前に建設された可能性が高いのです。
「土地に対して何階の建物を建てることが出来るか」を定める基準である容積率が超過している分譲マンションが多く存在しています。
容積率が超過している分譲マンションは、「各住戸の床面積を減らす」か「住戸の数を減らす」のいずれかの方法で建て替えを行う必要があります。
そうなると周辺の土地購入費用や減らした住戸分の費用負担が重くのしかかるため区分所有者の費用負担が高くなります。
また容積率を現在の法律に合わせると建物を小さくする必要があるので、デベロッパーにとってもメリットが少ない建替えになります。
これら3つの理由のために、建替えが必要なマンションでも建替えの実施まではいたらないことが多いのです。
マンションの建替えについてのまとめ
マンションの終活の選択肢の一つである「建替え」ですが、非常に時間がかかることと、資金の捻出や区分所有者の同意など越えなければならない壁が多いのが現実です。
逆に言えば、うまく建替えのできるマンションは非常に恵まれた条件と人材と資金力があるとも言えます。
できることならば、こうして建替えの実績が増えて、今後何度でもマンションが再生されるようになれば廃墟化問題も減少するのでしょう。
その為にもマンションを所有する区分所有者の皆様が、このような知識をつけてマンションの未来を考える方が増えることが一番だと思います。
次回は、建替えが出来ない場合の選択肢の一つである「敷地権売却」について解説しますので一緒に学んでいきましょう。
マンションの終活は皆さんの力が必要ですので
ちょっと難しいですが頑張りましょう
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