「マンションの終活」で一番大切なことは区分所有者の皆さんが、ご自身の住んでいるマンションの行く末に意識を向けることです。
普段、生活をしていて「このマンションどうなるのかな?」と考える方は少ないと思います。
なんとなくいつまでもこのまま住んでいられる気がしている方も多いのではないでしょうか?
どこかで考えなければいけないことだと思っていても、いざこの問題を突きつけられると、不安になる方、恐くなる方、考えたくない方、面倒くさいと思う方、色々です。
私が20年管理してきた築44年の「Oマンション」の皆さんに、「マンションの終活」について意識を向けていただくために臨時総会を開催することになりました。
しかし「マンションの終活」についての話合いは、初めて切りだすときは慎重に行うべきです。
なぜかというと、マンションには色々な考えの方がいるからです。
皆さんがしっかり受け止められるように一つずつ説明していくことにしました。
それでは実際に私が作成した議案書をご紹介しますね。
どうすれば皆さんに理解してもらえるのかを
考えて作成した議案書と
実際の総会時の皆さんの反応もご紹介しています
まずはマンションの「臨時総会を開催するためのお知らせ文」を出す
臨時総会を開催するまでに理事会で何度も話合いをしました。
その甲斐あって理事の皆さんはマンションの終活についての意識が強くなり、沢山の意見が出るようになりました。
やっぱり人は意識が向くと
いろんな考えが出るようになりますね
そのうえでまだこの話を知らない区分所有者の皆さんにどうすれば理解してもらえるかの話合いになっていきました。
理事の皆さんのアイデアや要望を詰め込んで臨時総会の案内文を完成させました。
ますは「マンションの終活」という言葉はやめようということに(笑)
ご高齢の方は耳馴れず、恐く感じる方もいらっしゃるだろうということです。
ですので「マンションの将来」という言葉に変えました。
まだ終わらせたくない方も多いですからね
ただし、いきなり沢山の資料が送られてきても「急には受け止められない」という意見もあり、まずは「臨時総会を開催するためのお知らせ」を送ることにしました。
「こんな感じの総会をしますよ~」
という理事会からのお知らせです
「そろそろみんなでマンションの将来についての話し合いをしましょう。
マンションの将来を考えるとお金も必要ですし、修繕積立金も変更しないといけませんよね」
と、いうことを匂わせた「臨時総会を開きますよという理事会からのお知らせ文」です。
とりあえず日時だけは指定しておいてなるべくたくさんの方に来てもらえるように早めに出しました。
このお知らせ文は効果ありました!
これを送ったことで何か言ってくる人はいませんでした。
もしかしたら「どういうこと!?」と電話がバンバンかかってくるかと思っていましたが全くなかったです。
詳しい内容はあえて書きませんでしたが、このお知らせを受け取ったことによって次に送られてくる「本文書」を受け止める気持ちができたということです。
次が臨時総会の議案書です
臨時総会の議案書
まえがき
いきなり決議事項を書くよりも、高経年マンションとはどういうことなのか?
今のままではOマンションはどうなっていくのか?
何を考えなきゃいけないのか?
そんなことをわかってもらうためのまえがきを書きました。
はじめに 「Oマンションの将来について」
Oマンションは1979年に竣工されたマンションです。
現在築44年となりました。
国土交通省の調べによりますと築40年以上のマンションは現在115.6万戸(マンションストック総数の 約17%)10年後には約2.2倍の249.1万戸、 20年後には約3.7倍の425.4万戸となる見込みです。
現在、この高経年のマンションの問題が深刻になってきております。
マンションというものが日本に登場したのが約70年前。
ですので実際に高経年のマンションに対応している実例がまだまだ少ないのが現実です。
Oマンションも築44年を迎え、今後どうしていくのがよいのか皆様のご意見を聞いて話し 合っていかねばならないと思います。
高経年のマンションはこれまでよりも修繕しなければならない箇所も増えていきます。
以下、築40年以上の高経年のマンションに出てくる劣化や諸問題について解説します。
【躯体の劣化】
Oマンションは鉄筋コンクリート造りです。
鉄筋コンクリート造(RC造)は主要な構造体が鉄筋とコンクリートを組み合わせた材料で 構成されています。
圧縮に強いコンクリートと、引張力に強い鉄筋を組み合わせることで、耐久性や 耐火性、耐震性に優れています。
しかし、経年劣化によってマンションの躯体に発生する問題は主に「外壁」に生じます。
外壁下地コンクリート面の「ひび割れ」、「爆裂」といった症状が主に発生するのです。
外壁に「ひび割れ」(建築用語で「クラック」)が入る原因は、気温の変化や建物に加わる地震などの 外力が影響します。
コンクリートの「爆裂」とは、上記のひび割れ(クラック)などから雨水が浸水してコンクリート内の 鉄筋に錆が生じ、膨張してコンクリートを押し出している状態を指します。
築40年を超える高経年のマンションは居住者の高齢化や、区分所有者と連絡が取れない 空き家住戸が増えることにより、適切な維持管理が行われず、外壁の劣化や鉄筋の露出等の建物の 老朽化による不具合が起きるリスクが高まると言われています。
そして、このような老朽化したマンションでは、外壁が剥落し居住者や近隣住民等に生命・身体に 危険を及ぼす問題が発生するといった例も報告されています。
【設備の劣化】
高経年のマンションで発生する建物の不具合では、給排水管の劣化によるものを含め漏水や 雨漏りがマンション全体の40%と最も高い発生率となっています。 (参照元:国土交通省「平成30年度マンション総合調査」 )
その他にもガス管、電気系統、給水ポンプ等、玄関ドアや窓サッシ、メーターボックスの扉も 経年により劣化しております。 その中でも建物の中を通る配管の取替工事については非常に大がかりで費用も高くつきます。
【耐震性の問題】
地震大国の日本では耐震性能が大きな問題となります。
1981年を境にした旧耐震基準と新耐震基準。
Oマンションは1979年に竣工していますので旧耐震基準の建物となります。
新耐震基準の建物と比べて大きな地震に対する耐力が残念ながら低いといえます。
では、耐震診断を受けて、耐震改修工事を施せばよいのでは?と思いますが、実はそう 簡単な話でもありません。
耐震改修工事を施したとしても、現行の耐震基準と同等の耐震性が確保できるわけでは なく、あくまでも倒壊などを防ぐという意味で、一定の効果があるということです。
このような劣化や様々な問題がこれからのOマンションには起きて参ります。
非常に多くのお金が必要になるということが予想されます。
参考資料として最近、問題になっています廃墟化したマンションの記事を添付しました。
修繕積立金が不足してしまい必要な修繕が出来ない為に人が住めるような状態では なくなってしまったマンションです。(参考資料参照)
この記事からもわかる通り、Oマンションの将来について区分所有者一人一人が考えていく 時期だと思います。
廃墟マンションにしない為にも、皆様でOマンションの今後を話し合っていきたいと思っております。
どうぞ宜しくお願い致します。
参考資料
参考資料として添付した内容はこちらの記事でご紹介した廃墟化したマンションの実例のニュース記事をコピーしたものを添付しました。
文書の中に解説でいれるよりも実際のニュース記事をコピーして配布した方が真実味があるという理事のご意見でした。
長期修繕計画書の解説
あらかじめ理事会にて作成した長期修繕計画書を色々なパターンでシュミレーションしたものを添付しました。
現在のままの修繕積立金では「全然足りない」ということを理解してもらうために4つのシュミレーションを作成しました。
ただここで一つ失敗がありました。
この長期修繕計画書は管理会社が自己判断で作成したものだと思われたのです。
「なぜ大規模修繕工事は12年周期なんだ!?最近は15年周期の案も出てきてると聞いたぞ。15年周期にすればもっと少ない予算でいけるはずだ」
そんな声が上がったので「こちらは国の機関に作成を依頼したものなので現在推奨されている12年周期なんです」ということをお話すると納得されました。
文書の中にもそのことを書いておくべきでした。
「Oマンションの長期修繕計画書について」
第44期の理事会にてOマンションの今後についての話し合いのために長期修繕計画案を作成致しました。
前回の総会で2024年の2月より大規模修繕工事を実施する予定としておりましたが、 現在の長期修繕計画案では12年サイクルを推奨しています。
よって、完成した長期修繕計画案も2年後ろ倒しの2025年度に実施となっております。
こちらの数字は国土交通省が定めている長期修繕計画標準様式に沿った修繕周期に基づき 単価は一般的な計画修繕工事の実施データ等をもとに設定した標準モデルの戸当たりの 額をマンションの形状、仕様等による係数で補正しています。
※首都圏の数字の8割で計上しました。(地域等による差異を考慮)
今後のOマンションの修繕積立金の金額変更の参考資料として①~⑦のシュミレーションを作成しましたが、その中で必要なものと不要なものをチェックして最終案として作成した 4つのシュミレーションを添付しております。
(以下、シュミレーションの内容です)
①こちらが基本となる標準様式の修繕計画の工事周期で必要な修繕工事を計上した 長期修繕計画案です。
こちらは来期より修繕積立金を現在の5,000円から10,000円に値上げした場合の例です。
2024年度に建具・金物(玄関扉や窓サッシ、メーターボックスの扉等)の取替工事、給排水管の取替工事、避雷針の取替工事が入っています。
その結果、2024年度(第45期)で修繕積立金の残高がマイナスになってしまいます。
②は理事会で必要最低限しなければならない修繕工事のみを抽出しました。
上記①の分から建具・金物(玄関扉や窓サッシ、メーターボックスの扉等)の取替工事、 給排水管の取替工事、避雷針の取替工事を除いています。
給排水管につきましては、排水管の方が鋼管ではないとのことで一旦外しました。
(洗面所・トイレの排水管は塩化ビニル管に外装部に不燃繊維が存在する配管材です。台所・浴室の排水管は前回の大規模修繕工事で塩ビ管に取替えております。)
ただし、こちらは不燃繊維は巻いておらず熱に弱い為、熱湯などを流すと割れる可能性があるものです。
塩ビ管は腐食はしませんが劣化はします。
水漏れ事故が起こった時に都度対応していく ことが必要になります。
尚、給水管の方も本来ならば取替工事が必要ですが、全戸一斉取替工事になりますと室内を通る工事の為、非常に大がかりな工事になります。
一旦、不具合が起きた時に都度対応するものとして長期修繕計画案からは外しております。
その上で②は現在の修繕積立金額5,000円/月のシュミレーションです。
第46期(2025年)の大規模改修工事は実施できますが、次の第58期(2037年)は修繕積立金の残高不足のため実施できません。
また、2025年の工事後の修繕積立金残高が少なくなるので何か突発的な修繕が必要になった 場合に不足する可能性があります。
③は現在の修繕積立金額5,000円/月を来年度から8,000円/月に上げた場合のシュミレーションです。
こちらの場合は2025年度・2037年度、共に大規模修繕工事は実施可能です。
但し、その次の2049年度の工事は修繕積立金の残高不足により実施できません。
④は現在の修繕積立金額5,000円/月を来年度から8,000円/月に 上げて、第53期から10,000円/月に上げた場合のシュミレーションです。
こちらの場合は2025年度・2037年度・2049年度、共に大規模修繕工事は実施することは可能です。 –
第1号議案 大規模修繕工事の日程変更
Oマンションは2023年度に大規模修繕工事をする予定になっていました。
今まで10年周期で工事してきたのでそう決まっていたのですが、少しでも修繕積立金を温存するために、12年周期に変更しようということです。
前おきが長くなりましたがここでやっと第1号議案の決議を取りました。
第1号議案 Oマンションの大規模修繕工事の日程変更について
長期修繕計画案を見て判断すると第43期定期総会で決まりました大規模修繕工事の日程を 2023年度から2025年度へ変更したいと思います。
理由としまして国が定めている長期修繕計画の大規模修繕工事の周期が12年を推奨しているという点と、
Oマンションの外壁の状態を目視したところあと2年なら大丈夫ではないかという点です。(あくまで目視です。)
以上、大規模修繕工事の日程決議を2023年度から2025年度へ 変更してもよいか決議をお願い致します。
無事に賛成を得て承認されました。
マンションの維持管理の年数について
2年後に大規模修繕工事をするのは決まったけれど、結局はいつまでOマンションを維持しつづけたいのかを所有者の皆さんに聞く必要があります。
一体皆さんはどう思っているのでしょうか!?
「Oマンションの維持管理の年数について」
長期修繕計画案の内容を見て頂いた結果から、Oマンションを何年まで維持して いくのかの話し合いになります。
そもそもマンションの寿命は何年程度なのかといいますと、実はマンションの寿命はあってない ようなものです。
鉄筋コンクリート造りの建物の耐用年数は47年とされていますが、「耐用年数=寿命」ではありません。
管理次第ではもっと長く維持できると思います。
(一般的には60年~70年の間で取り壊されていることが多いそうです。)
具体的には建物を維持しようと思えば、丁寧な管理をしていれば60年以上でも持たせることはできます。
ただし、長く維持するには、お金が必要です。
もしOマンションの維持を築60年で終了するのならば、修繕積立金は月額8,000円でも可能かもしれ ませんが
築60年以降も維持し続けると考えるならば段階を踏んで更に値上げはしていかねばなりません。
理事会での話し合いでは、「とりあえず60年はもたせたい。」 「それ以降のことは2031年度(第52期)で考えてはどうか」となりました。
長期修繕計画案は5年ごとの見直しが推奨されています。
実際に工事にかかる費用での修正や、突発的な不具合が起こる可能性もあり修繕積立金の残高が 変わるからです。
また、「建替え」か「敷地売却」かの話し合いも必要になります。
マンション所有者は、将来的には以下の3つの中から選ばなければなりません。
①修繕積立金を上げてなるべく長く維持管理して住み続ける。
②マンションを建て替えて、またそこに住む。
③敷地権売却(区分所有の解散)をして別の所に居住する。
一軒家とは違い、マンションは多くの区分所有者で一つの建物を維持管理しています。
Aさんは①番、Bさんは②番、Cさんは③番という風にそれぞれの思いが違っていると先に進めません。
区分所有者全員の意見を揃えて同じ目的に向かって進まなければならないのです。
上記の3つの選択肢について、それぞれお金は必要となります。
建て替えや敷地権売却については専門家を入れて進めていかなければならないので その費用もかかりますし、引っ越し費用、解体費用など大きなお金が必要になることは確かです。
話合いには、それぞれの事情がありますし、長い時間がかかることが予想されます。
なのでお一人お一人がご自身の未来とOマンションの今後のことをよく考えてみてほしいのです。
今からでも皆様がどの選択を希望するのかを知っていく必要があります。
どうぞよろしくお願いいたします。
所有者の皆さんにご意見をお聞きしたところ、「できるだけ長くこのまま住んでいたい」というご意見が多かったです。
この結果はわかっていました。
Oマンションの所有者で実際にOマンションに居住されている所有者さんは高齢の女性の一人暮らしが多いのです。
高齢の女性は住まいを移動したくはないでしょうし、住み慣れてご近所付き合いもうまくいっていればなおさらです。
そして出ると思った一言。
「私が死ぬまで住めたらいいわ。自分が死んだあとは知ったことじゃないし」
出た~~~~!!
この考えの人が多くなると本当に話し合いは進みません。
そして収益物件としてOマンションを所有しているやる気のある若い世代の方は「このマンション、ずっと持っていたら面倒なことになりそうだな。今の賃借人が出たらさっさと売ってしまうか」となってしまうのです。
区分所有者の高齢化が進むと話合いも進まなくなるので阻止したいところですが・・・。
「それを言っちゃ~おしまいよ!」です
修繕積立金額の変更について
まだ一度目の話合いなのでとりあえずはこのような感じで終わるだろうとは予想していました。
今回は将来のために修繕積立金の値上げを決めてしまいたかったので改めて決議を取ることにしました。
第2号議案 Oマンション修繕積立金額の変更について
長期修繕計画案の結果から、現在の月額5,000円のままでは資金不足により 2037年度(第58期)の大規模修繕工事が実施できない為、2023年度分より 月額8,000円に変更したいと思います。
なお、この金額は必要最低限な修繕工事のみをピックアップした場合の金額です。
給水管の全戸取替や、玄関扉やサッシの取替をしたいとなればこの金額では不足です。
今、考えられるだけの必要最低限な工事費用での金額です。
何か不具合が起こったときの予算も入っていません。
大きな事故や不具合が起こった時は一時金徴収になりうるといういうことも頭に入れて おいてください。
その上で、2023年度分より修繕積立金を現在の5,000円から8,000円に変更することの 議決をお願い致します。
変更前:管理費5,000円+修繕積立金5,000円=10,000円
変更後:管理費5,000円+修繕積立金8,000円=13,000円
こちらは満場一致で承認されました。
今回は3,000円だけの値上げで済みましたが、また数年後には金額を上げていくことになると予想されます。
ここからは何度も何度もこのような話合いをして区分所有者の皆さんに「マンションの将来」を考えてもらうようにしていくことが大切です。
「自分が死んだあとのことは知ったことじゃない」という方々にも真剣に考えていただけるようにこれからも総会でこの話題を出していくことが必要でしょう。
まとめ
私が20年管理している「Oマンション」の将来についての話合いが無事終わりました。
最初の話合いは慎重に解説して、高経年のマンションについて理解してもらえるように工夫しました。
これから築年数40年以上のマンションは「Oマンション」と同じような話合いをする管理組合も多いのではないでしょうか。
管理組合の理事の方、管理会社の方に少しでもヒントになればうれしいです。
日本の廃墟化するマンションを少しでも減らしていけるように情報を収集して開示していければと思います。
廃墟化させたくなければ今から動きましょう!
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